午後から某所を出てきた二人は混む所は避けてさけて…と選んだ場所は、丁度士度に会ったことから、マドカ邸。ちゃんと駐車場も完備されているからスバルも無事。ヘンな所に駐車したら即通報な高級住宅街である。

 寒いさむいとぶるぶる震える二人に、早速マドカが出したのは、ホットワインだった。ほっと息をついて震えが止まると同時にぐー、と二人のお腹が鳴く。
 「ごはんを持ってきますね。」との言葉に、二人はそれぞれ喜ぶ。なんてことはない。銀次の怒りがまだ続いているのだ(ここら辺は「ぶつぶつ集」参照のこと)。うすうすとその怒りに気づいている士度。…と、思い出す。
「おい、銀次。今日花月の誕生日じゃねぇか?」

 蛇ヤローをいたぶるにはもってこいの日だ。

「あ!そうだ!」
 蛮を徹底的に無視して「じゃあ、カヅッちゃんも呼ぼう、という話になって、本人がやってきたのは30分後。無論、銀次は本当の理由は知らされてない。
「たんじょーびおめでとー!カヅッちゃん。」
「よ、また一つ年取ったな。」
「おめでとうございます。花月さん。」
「………ジジイへ一歩前進の糸巻きさん。」
 それぞれの言葉(最後は笑顔をひくつかせながら)を受け取り「ありがとうございます。」と優雅に一礼。
「んー…でも、なーんも誕生日プレゼントないんだよなー。」
「安心しろ。俺もだ。」
「俺はそれ以前だ。」
 男三人の言葉にマドカはにっこりと笑って「なら、ヴァイオリンでもいかがですか?」ときいてきた。
「あ。そうだ。銀次サン。」
「んあ?」
 タレる途中だった半リアル銀次が慌ててリアル銀次に戻る。ちょっとキモかった。
「それならお願いがあります。」
「ん?なになに?」
 ぎろり、と蛮が睨む、が、花月は無視。
「あの歌、聞かせていただけませんか?」
「ああ、あの歌か。」
 士度も同調する。銀次はややあって「あれ!…あれでいいの?」と尋ねる。
「いいんですよ。あの歌は銀次サンくらいしかもう歌いませんから。」
「うん。ならいいよ。…マドカちゃん、「いちがつついたち」っていう歌、知ってる?」
 銀次の問いに、調弦をしていたマドカが銀次の方向を振り返りながら言う。
「えっと…年のはじめの…でしたよね。一度聴いたことがありますから大体覚えてます。」
「一度で覚えられるんだ。すごいねー。」
「何度言っても覚えられないテメェの頭とは雲泥の差だ。」
 茶化してくる蛮に珍しく銀次はぷぃっと顔を背ける。そうだった。まだケンカは続いていたのだ。本当に金の恨みは恐ろしい。
「銀次、ようやくこの蛇ヤローのロクデナシぶりがわかってきたか。」
 士度がニヤニヤと蛮を見ながら言うと、返ってきた答えは…
「んー、ロクデナシ『コイビトにふられて、フダツキと呼ばれて、平日にはれぎを着て、人形を抱いて、日暮れに帰って、夜明けにでていかなきゃいけない人』 だから蛮ちゃんはロクデナシじゃないよ。」

 一同、沈黙。

「……それ、ロクデナシの定義とは大きく違いますね…。」
 花月が言う。ため息つきながら。
「フォローにもなってねぇし…越路吹雪かよ…」
 よりによって、と蛮ががくっとうなだれる。
「そ、そうか…ロクデナシではないのか。じゃあなんだ?」
「預金下手。」
 その言葉にややあって吹いたのは、蛮の金使いの悪さを良く知っている二人であった。ああ、楽しい。


「じゃあ、伴奏をひきますから、お願いしますね。」
「うん。こちらもよろしく。」

 世界的に活動を始めようとするヴァイオリニストに何のてらいもなく言える
のは彼だけだろう。
 マドカは弦を置き、ゆっくりとしたテンポで曲を弾き出す。うん、うん、で合図。銀次はうたいだす。

   年のはじめの ためしとて
  終わりなき世の めでたさを
  カドマツたてて 門ごとに
  祝う今日こそ たのしけれ


 あー、この歌か。と蛮が思っていたら、やはり銀次はやってくれた。

  はーつひのひかり あけらけく
  おさまるミヨの けさの空
  
君がみかげに たぐえつつ
  あおぎ見るこそ とうとけれ


 前半歌詞違うじゃん。

 と二人を見ても別にいつもの顔(花月は感激している顔だったが)、だ。無限城では独特の路線で歌詞が変わるのか?…いや。

 銀次だけしかもう歌えない、と言ってなかったか?

「な、なぁ、銀次。」
 拍手もそこそこに、蛮は銀次に詰め寄る。
「なに?蛮ちゃん。」
 いつものわんころ笑顔はなく、まだちょっと機嫌が悪い。
「その歌、天子峰から教わったのか?」
「うん。」

 やっぱり天子峰!

「僕も最初は驚きましたよ。まさか明治時代の歌詞を歌われるとは…ね。」
 あの歌詞は大正元年までの歌詞ですよ。と花月は苦笑しながら教えた。
「なぁ、テメェら、本当にあいつの育ての親って見たこたねーか?」
「ない。」
「残念ながら…。」

 無限城でどうやったらあの性格が育まれたのか知りたい。

 四天王も全員そうこぼしていたらしい。そして

 無限城でどうしてそこまで偏った知識を持っているのか知りたい。

 ともこぼしていた。と二人は語った。
「銀次さん、素敵な歌声でした。」
「あはは、マドカちゃんもきれいな音だよねー。いつ聞いてもすごいよー。」
「いえ、そんな…」

 きゃぴきゃぴと話を弾ませている二人を見ながら、元四天王の二人と現相棒は小声で確認しあった。

『銀次の育ての親はナニモンで、何歳なんだ?』と。

 どうやらそれが、彼らから与えられた、「絃の花月の好奇心をアップさせる」という誕生日プレゼントになったようだ。波児からは依頼もあったが、それは内緒。
「んじゃあ、まぁ、最低限の下調べはしておかねーと、な。」
 蛮がそう言うと、銀次の所へと行った。
「ぎーんじ。」
「なに?蛮ちゃん。」
 今まで笑っていた顔がむすーっとした顔になる。
「まぁ、さっきまでのことは…悪かった。」
 珍しく蛮に謝られて銀次は思いっきり戸惑う。
「う…ううん、俺も言いすぎたと思ってたし…」
 じゃあ、仲直り。と銀次が言って、いつもの通りの笑顔を蛮に返した。
「で、な?ちょっとききたいことがあるんだけど…お前の育ての親の話。」
「私も聴きたいです!」
 マドカも参入して、がやがやとソファーに移動する。
 4人がかりで銀次から天子峰の情報を大体得たのは休憩も挟んで数時間後。

 そして…

「やっぱり銀次さんの育ての親だ…。」

 ぽつり、と花月がもらした言葉。その下には興味津々という文字も浮かんでいる。

 今年も楽しい年になりそうだ。


はい、一月一日という歌から始まりました、2007年もよろしくお願いします。
二番の出だしは

初日のひかり さしいでて
四方にかがやく けさの空

が今も歌い続けられている歌詞です。曲は…「とーしーのはーじめーのかーくしーげいー」
です。こっちのほうが有名になってしまって、結構モトウタ知らない人多いんですよね。
今回、フォントが違うのは、ずっとコツコツためていたフォントを一気にインストールしたため。
流石に2000以上あると、迷います。

なお、越路吹雪の「ろくでなし」は名曲だと思ってます。