銀次の使用方法 2



「…で、今、何チャンネルみたいの?」
 口にケーブルの末端をくわえながら、銀次は尋ねた。
「やっぱりこの時間はみのさんです。4チャンネルです。」
「ああ、4チャンネル。んーと、しゅうはすーは…」
 ぶちぶちと呟いた後「あった。」と口の端に再度ケーブルをくわえる。そのケーブルのもう一方の繋がっているほうは…テレビ。
「じゃあ、電源つけていいですか?」
「いいよー。」

 パチ。

『おじょーさーん…』
「あ、みのさんクッキリ。すごいですねー。銀次さん。」
 夏実とレナ、拍手。今まであったゴーストも何もなしのクッキリ映像である。銀次の電波の捉え方はとんでもないレベルである。
「え、こんなの朝メシ前だから。」

 …おいおいおい、ラジオの時も同じこと言っていなかったか?

 さりげなく、波児はツッコミを入れた。
 昨日の強風と豪雨で、八木アンテナと、衛星放送用のパラボラアンテナが壊れ、しかも同軸ケーブルが水を含んでしまい、全部乾くのを待つか、総交換か、というときに銀次が一人だけ来たのだ。夏実には「アンテナが壊れた。」としか言っていなかったから、そのままを銀次に説明したら、このようなことになってしまったのである。
 電波は電波だからか?
 一人ツッコミをする。まぁ、雷帝やらディアブロやらと言って恐れられた電気の塊のような銀次も、平和的活用すればこうなるのだろう。というところか。電気が必要なこの社会。ある意味家に一人いたら便利な存在なのだろう。多分。

「あ。」
 銀次がその時声をあげた。
「キャッ」と二人が声をあげる。いきなりみのさんが消えて、ややあってパッと風景画像になったのだ。
「ぎ、銀次さん、これ…?」
「あ。そだ。ごめん。つい反射的にやっちゃった。」
 ごめんなさい。と謝る銀次。
「何を映しているんだ?」
 波児が問う。恐る恐る。
「え。あ。はい。」
 確かマクベスが…と前置きをおいて、言った。
「アメリカのテイサツエーセーからの画像だったかな?」

 カウンター3人は固まった。

「なぁ、銀次。」
 ことさら優しく(そうでもしないと「ふざけんな、デタラメがー!と怒鳴ってしまいそうで)波児は尋ねる。
「な、なに?波児。」
「スクランブルはどうした?衛星がなんでそのままテレビに映る?なんでその電波を知っている?」
 うきゅー、といっぺんにたずねられ、銀次はタレた。するとそのまま画像も砂嵐になる。難しい日本語をいっぺんに言われると起こす、このごろの銀次の得意技である。
「えーっと、銀次さん、この画像って、暗号…パズルみたいになってませんでした?」
「ん?解いた。」

 あっさり。

 解いたって…?

 カウンター3人組はまたも固まる。その姿に「やだなぁ。」と手をぷらぷら振りながら銀次は答える。
「純粋な画像のみの電波を知っているんだから、それ以外ははねつければいいだけだよ。少し最初に結わいてあるみたいなところがあるけど、そこを解けば簡単だし。」

 それが難しいっつーの!

 もう少しで波児は怒鳴るところだった。ああ、このおばかさん。
「じゃあ銀次さん、なんで衛星放送がそのままこのテレビに映るんですか?」
「え?体の中で電波を変えたから。」
 これまたあっさり。

「降圧器もあるのか…。」
 波児、がっくり。機械にうとい女性陣、クエスチョンマーク。そのクエスチョンマークに銀次は答える。
「んーとね、エイセイホウソウって、すごーく強くて短いんだ。」
「電波の波形と形状がな。」
 波児が二人のために補足してやる。
「だから。衛星は一番簡単だよ。ただスポニチの時は大変だったけど。」
『スポ日?』
 今度は三人の顔にクエスチョンマーク。
「あれ…違ったかな?蛮ちゃんが良く読んでる新聞のよーな名前だなーって無限城出て思ったんだけど…。あれ?東スポ?」
 その言葉でようやくピンときた。波児がはぁぁぁぁぁぁと深い深いため息をつく。
「銀次。」
「ん?」
「それはスポ日でもない。ましてや東スポでも報知でもない。」
 ゆっくりと口を開く。
「…スポラジックE層。…略してスポEだ。まぁ、Eスポとも言うやついるけどな。」
「ああ、そう。それそれ!」
 銀次が手を叩いて喜ぶ。
「日本語は正しく、ですね。」
 むん、とレナが拳を握る。
「そうですね。」
 むん、と夏実もそれに答える。要は二人とも意味がわかっていない。仕方ない。と裏づけのために、リアルバージョンに戻った銀次に話しかける。
「それは大体夏の時期だったろ?」
「良く知ってるね、波児。」
 すごーい。という顔で銀次は見る。
「そうなんだよ。スポニチ…えーっとスポEの時はあらゆる電波が反射して、すごいことになるんだ。下手にキャッチしたら、頭割れそうになるくらい。遅い電波のくせして知らない言葉しゃべってたり、笑師に似てるしゃべり方してるからきいてみたら「それは九州のほうの言葉ですわ。」とか返ってきたり。だから、マクベスから頼まれた時以外は自分で電波を遮断する壁みたいなのを作って。15分くらいの時もあれば2時間近くの時もあったりして、大変だったなー。」
 身振り手振りで説明する銀次。夏実とレナは「すごいですねー。」「大変ですねー。」と答えていたが、波児は頭を抱えていた。もし、この場に蛮がいても同じことをするか、もしくは殴っていただろう。スケルチ回路まで備えた電気ウナギ…。
 どうやら蛮の相棒は、電子機器の受信に関してはありとあらゆる分野で活躍できるらしい。ただし、銀次語が通じるかどうかだが。
「なぁ、銀次。受信はどうだが、送信のほうはどうなんだ?」
「ソウシン?」
 銀次がクエスチョンマークモード。
「あー、電波を作って流すほう。」
「ああ、やってみたけど簡単だった。…この間ねー、マクベスと二人で十兵衛の「練習結果」をNHKの衛星と同じ電波に乗っけて全世界に流そうかって電話で話してたら、後ろにいた蛮ちゃんに思いっきりぐーでなぐられた。痛かった。」

 よくぞ止めてくれた、蛮。

 もう少しで(十兵衛の練習結果というのは知らないけど)全世界指名手配になるところだった。
 無限城がらみの者たちはどうして、こんなのが沢山いるのだろう。いや。

 気を取り直して、みのさんを見ている3人を見ながら思った。

 こんなのが沢山集まるから無限城なんだろうな…とか。
 その「こんなの」の一人が「昔の自分」と思い出し、波児はぶるっと身を震わせた。

 ああ、これもとりあえず、HONKY TONKの日常。

スケルチ回路というのは強い電波はシャットアウトする回路のことです。

NHKジャックの上に十兵衛のギャグとばしたら何人の老人が病院に担ぎこまれるか
ある意味ジャイアン・リサイタルよか怖いかも。
蛮、よくぞ止めた。
そして冗談でもマクベス君は恐ろしいことを銀次に言わないように。