銀次の暇つぶし



「ん゛あ゛ー、ひま。」

 HONKY TONKにて。

 いつもの一こま、いつもの言動。

「じゃあ、これでもやってみませんか?」
 いつもと違うことが起きたのは、レナが出してきた一冊の雑誌。
「なに?レナちゃん。それ。」
 ひょこっと身を起こし、不思議そうにその雑誌を見る。
「な…なんくろ?」
「そう。銀次さんはクロスワード・パズルは全くダメですよね?」
「うん。」
 悲しいがな、銀次の漢字と文章能力は小学生レベルだ。英語に至ってはアルファベットすらうまく読めない。
「ですからー、これ、数字のパズルなんです。」
「すうじの?」
「はい。」
 レナがにっこりと笑う。一通り説明すると、波児は無言で銀次専用筆記用具(鉛筆と消しゴム)を取り出す。シャーペンは考えているときついつい電熱をとばしてしまうため、溶かしてしまうのだ。故に原始的かつ便利な鉛筆を用いている。…だが、4Bの鉛筆がだんだん熱で固くなり、最後あたりになると6Hぐらいまでになってしまうために使えなくなる。電気使う人間は書くことは難しいという悲しい事実だ。
「うーん、俺、たす、と、ひく、と、かける、と、わる、とぶんすう、としょーすーてんと、ししゃごにゅーしか知らないけど、平気?」
「大丈夫です。」
 にっこりと夏実も援護射撃をする。
「ならやってみる〜。」
 にっこりと笑って、最初のパズルに取り掛かった。



「ちーっす。波児、ブルマン。」
 5時間後、蛮がビニール袋を持って戻ってきた。どうやら今日は少しは勝ったらしい。中にはマールボロとお菓子が入っているようだ。
「あ、蛮ちゃん!おかえりー!俺もね、ちょうどできあがったんだ!」
 ガバッとスツールから立ち上がり、がばむっと蛮に抱きつく銀次。これまたいつものことだ。
「そーかそーか。なら晩メシはちょっと豪華にいくぞ!豚丼の特盛、味噌汁付きだ。」
「…生卵は?」
「いいだろう。」

 珍しい。

「おめぇがこの時間まで大人しくしてるなんざ、珍しいな。」

 うん。それも珍しい。と全員が頷く。

「うん。ずっとナントカとかいうやつで遊んでたんだ。全部できたところで蛮ちゃんが来たんだよ!」
 うーん、ナンまでは合っていた。…で、全部?
 HT三人がそう思っている間に二人は出る仕度をして「またねー。」と出て行ってしまった。
「………」
 レナが何気なしに雑誌のページを繰る。そのスピードが段々と速くなる。
「どうしたの?レナちゃん。」
 ひょい、とそれを覗き込む。…と、目が点になる。
「ぜ、全部…解いてあります…。」
 レナが全ての問題をチェックして、波児に報告する。
「答え見てたんじゃないのか?」
「多分、違うと思います〜。」
 なぜなら、あの問題量を全てこなし、全ての答えを出すのは無理な上、懸賞もあって答えが載っていないページもあるのだ。
「じゃあ、「あの」銀次が全部答えられたと?」
 波児が「まさかー」という顔で見やる。
「お客さんが忘れていったものですから、最初あたりはその方が書いてた形跡があるんですが…」
 その先は全部、銀次さんの筆跡なんです〜。とレナが言う。
「なら、実験してみるか?」
『実験?』
 波児は、そう言いながら、レナから差し出されたナンクロの雑誌をめくる。
 本当に最後のページまで書き込まれている。しかも迷った形跡が…全くない。

 ありえない。

「明日、違うナンクロの雑誌を買って、答えのところを破りとればいいだろ?」
 波児の提案に、二人は笑顔で頷く。
 この時まで、三人はおろか、蛮も知らなかった。

 銀次の恐るべき才能を………。



はい、はじまりました。うちの銀次くんの意外な才能。
この話一連を全てアップしたら、二人のマイ設定をアップしますよ。はい。