銀次の暇つぶし・2 |
次の日も銀次は一人でやってきた。今日はお馬さんの日らしい。そうそうにブレンドを頼むと、ふにゃーとタレた。 「おぅ、銀次。」 カウンターにむちむちほっぺですりすりしていた銀次が、顔をあげて一瞬でリアルに戻る。 「なに?波児?」 「ヒマならこれでもやってろ。」 ばさり、と銀次の目の前に「それ」を出した。 「うえ……えーっと、なんくろ?」 表紙を見て、とりあえずヒく銀次に、夏実は助け舟を出す。 「そうですよー、昨日やったヤツですよー。」 「昨日やったヤツ…あ、あれ?」 わー、それは楽しそう、と波児から鉛筆と消しゴムを受け取る。 「そうですよ。分からない漢字とかあったらきいてくださいね。」 「うん!」 パラリ、と表紙とか必要ないところをすっとばして、問題に入る。 「…ルールは一緒?」 「どれどれ…はい。昨日のと一緒ですよ。…ただし、その囲ってある数を足した合計での最小素数を出す…って、銀次さん、どこの説明が必要ですか?」 「合計ってなに?」 『え?』 全員が固まる。ややあって、レナが答える。 「イコールのことです。」 「そうなんだぁ。…あと、ソスーってなに?」 それには夏実が答える。 「どんなに割っても割り切れない数字のことです。1.3.5.7.11.1 3…とか。」 「あー、『つまらないかず』のことかぁ。うん。わかったー。」 言うなり銀次はカリカリと書き出した。波児がコーヒーを置いても気づかない。たいした集中力だ。 銀次に手渡した雑誌は「上級者用ナンクロ」。念のため答えの部分はあらかじめ切っておいた。自分たちが試しにやってみたが、全くわからなかった。銀次はたまに虚空を見上げるようにしただけで、全く手を休めることなく解いていく。 「でーきた!まず一問!」 まぁ、小手調べの小さいマスだったが…10分かかっていない。 「あ、コーヒーコーヒー。ごめんなさい。気づかなかったや。」 ぺこっと波児に謝ると、ミルクと砂糖をたっぷりと入れて、ぐるぐるかき回す。その間に次のページを開いてじっと見ている。 「銀次、かき回しすぎ。」 仕方なしに波児が声をかける。 「あっ!ごめっ!」 一回雑誌を伏せて、銀次はコーヒーを飲む。ちょっと温くなった程度だ。 「んー、おいしーv」 シアワセそうにタレて、こくこくと飲む。半分ほど飲んだところで雑誌を見る。と、途端にリアルへと戻る。 「次の問題、もう解けてるもんねー。書いちゃうね。」 へ? またもや固まる三人。それにすら気づかずさっさと書いていく銀次。さっきより小さいマスが見る間に銀次の鉛筆で書かれていく。 「んーと、全部できたけど、最後のしあげは?」 「その合計数と合計数をかけた数ですね。」 すかさず夏実が言う。銀次はちょっとちらっと虚空を見て。 「うん。これでよし。」 かりかりっ。 出来上がった。 「今度は次のページ見ない間にコーヒー飲もうっと♪」 またまたタレてうにゅぅ♪とコーヒーを飲みだす。おいしーおいしー♪と機嫌もいい。 「…マスター、昨日よりもペースが速いです…。」 レナがぽつりと言う。 「いや、すさまじく大きな問題が待っているから、銀次もそこでは悩むはずだ。」 波児はそう答えた。見ただけでうっと顔を横に背けてしまったそれ。銀次もそれには苦労するだろう。 「銀次、次の問題10分以内で答えが出たら、コーヒー奢るぞ。」 「え?いいの?」 リアルに瞬時に戻り、真顔で尋ねてくる。 「おお。男に二言はねぇ。」 波児の言葉にニコッと笑って「やったー!」と次のページをめくる。 「わーい、面白そう。」 銀次のテンションは下がらない。 その問題は8分で解いて、波児にコーヒーを奢らせることに成功した。 とてつもなく大きな問題は1時間かかった。それ以外は長くても20分で解いた。その間に銀次は波児のおごりで昼食とおやつとコーヒー3杯を胃袋に収めていた。 「しあわせー♪」 タレて椅子の上でくるくると踊っている銀次の前には、回答がすべて終わっている雑誌。 「銀次さん。」 そこでレナを止めておけばよかった――――後に波児は回顧する。 「銀次さんは問題作れないですか?」 「作れるよ!」 じゃあ、簡単なヤツねー♪と銀次はいきなり言い出す。 「みっつずつのマスにー、まんなかにー…」 「待て。銀次。書け。」 名前以外は全て命令口調で波児は一枚紙を取り出して渡す。 「ありがとう。波児。」 礼を言って、書き出す銀次。とりあえず「みっつのますー」と呟きながら書いている。 「でーきた♪すごーく簡単な問題だよ。」 3×3のマスに、2箇所だけ数字が入っている。 「それをもとにして、横からも、上からも、ななめからもイコールの数が入るようにするのー♪」 「せ、先輩…。」 「うん。頑張ろう!」 二人でふんっと気張っている姿を見て、波児はふぅと息をついたところで「波児にも問題作ったよー。ちょっと難しいの。」といって、紙を手渡される…見ると、半分で切られている。そして中央に同じような3×3のマス。 「んと、このマスの中に、0から9までのどの数でもいいから数字をいれて、それがタテ・ヨコ・ナナメのかけたのがいっしょになるのを作るの。ただし、タテ・ヨコ・ナナメには一度使った数字は入れちゃだめだよ。で、そのかけた数で一番少ない数を答えて。」 こんなに長い言葉をすらすらすらと言える銀次を初めて見た…と感心する間もなく、波児は内心冷や汗を流しながらもう一枚、紙を取り出す。 「銀次。もう一度、その問題をゆーっくりと言ってくれ。」 波児は「大人の〜」シリーズ買うか…?と考えつつ、銀次から説明を三度聞いた。 暫くして、蛮がほくほく顔でやってきた。懐が暖かいらしい。「今夜はバリューセットLサイズいいぞ。」と言って来たからよほどのことだ。 「わーい!蛮ちゃんっ!ありがとう。じゃあ、次回来るまでの宿題〜♪」 まったねー☆と手を振りながら銀次は去っていった。残されたのは問題を手渡されたホンキートンク三人。 「マスターの問題、難しそう…というか…」 「銀次さんの言葉が…難しい…というか…」 自分たちの問題をよそに、すでに波児の手にある問題に焦点は移っている。 ああ、まったくもってありえねぇ。 銀次語も、数字もくそくらえだ。 波児は思いながらも、じーっとその3×3マスを見つめていた。 |
はい。銀次くんが出した問題は、実は○○○です。
この話はグレードアップして、さらに続きます。相棒巻き込まないでナンボでしょう(ふくみ笑)