タレる方法



「なー、銀次。」
「なーにー?蛮ちゃん。」
 カウンターに座っている蛮と、タレている銀次。HONKY TONKではおなじみの二人であり、いつもの光景だ。
「お前、よくタレてるけど、いつからタレるようになったんだ?」
 途端、リアルモードに戻ると、んーとんーと、と考える。で、「あ。」とぽん、と手を打つ。
「この間!ILで無限城行った時、カヅッちゃんの頭の上で初めてタレてみた!」
「この間?」
「うん。」
 昔からタレることはないとは思っていたが、こんなに最近になって…とは全く思っていなかった蛮である。
「そーいやー銀次。」
 波児がふとした表情で尋ねる。
「なに?波児。」
 少し首を傾げながら銀次が答える。
「タレてる時と普通の時の重さとか量とかが違うと思うんだが…。」
 そう言われて蛮ははっとする。

 質量保存の法則。

 この世界においてはどんなことをしてもプラスマイナス0ということだ。無限城のバカみたいな電磁波も、銀次に吸収され、排出される。この世界では絶対的な保存則である。無論、蛮の魔法だとてこの法則から飛び出すことはない。魔法でも何でも、この世界なら絶対にまかり通さねばならない法則の一つである。
「んー。」
 ぽん、と銀次はタレてみて、ややあってから、また戻る。
「…今ので全体の38.5489ぐらい。」

 何が!

 波児と蛮の視線が銀次に集まる。
「え?普通の時の体からタレた時のあっちに移した残りのタレぶん。」

 だから何!しかも「あっち」ってどこ?

 混乱しそうな頭を抱えつつ、波児が銀次にたずねる。
「銀次。どうやってタレようと思ったんだ?」
「ん?…なんとなく。」
「…なんとなくで普通タレるか!」

 げしっ

 蛮の怒りの鉄槌、炸裂。きゅーきゅー言いながらまたタレる。
「コツを覚えれば、カンタンにタレられます。」
 きゅーっと言いながらタレ銀次は答える。
 デコとか色んなところに怒りマークをつけながらづももももとまた鉄拳を下ろそうとしていた蛮に波児が「まぁまぁ」ととりなす。
「じゃあ、その方法を教えてくれるか?うまくいったら蛮もタレることが出来るぞ。」

 自分が?あのタレ?

 ぎっと波児を睨む。がどこ行く風で波児は銀次を見ている。ぽん、と音をたててリアルに戻る銀次。
「方法はカンタンです。」

 ほう。と二人は銀次を見る。そして次の言葉でコケる。

「まず、スキャンして、自分の計算をします。で、どこを移動していいか決めます。」

 カンタンじゃないじゃん。

 二人が思っていることを無視し、銀次は話を進める。
「で、その計算をもとに、大体、全体の38くらいが残るように、違う世界に電気で穴を開けて、電気で分解した自分を流すの。」
 で、残ったぶんを計算して、自分の姿になる。これがタレた状態だ。と説明した。


 重い沈黙………


「なぁ、銀次。」
 静かに口を開いたのは蛮。
「なに?」
 話が終わったとばかりコーヒーを飲んでいた銀次は蛮のほうを向く。
「こっちの世界ではタレた時はまったく電気は見えないが?」
「ん?あっちに流すようにしてるもん。」
 だから、こっちの世界では見えないはずだよ。と銀次は説明した。
「で、その全体の38というのは何が根拠…考えなんだ?」
 波児が尋ねる。
「んー。色々試してみたんだけど、それ以上あげるとなんか頭のバランスがとれなくて、それ以下だと体と頭のバランスが崩れるんだ。」
 頭の内容も結構とられるから、と銀次は付け足した。
「…じゃあ戻る時はいつもよりもバカっつーことだな?」
「うん。」
 いつもより…って。と波児は思ったが、あえてツッコミを入れるのはやめた。
「そのバカ頭でどうやってリアルに戻ってるんだ?」
「うん。おーとえぐぜ・ばっちファイルみたいなの使ってるの。」

 お前がなんでそんなことを知っている!

 蛮と波児、顔を見合わせて、十数秒後…同じ考えにたどり着いた。
「あー、マクベスか。」
「マクベス、だな。」
「うん。マクベスから色々教わったのを思い出して…それまで色々試してみたんだけど、それが一番しっくりいったから、今それ使ってる。」
 タレる時、それを押したら自動的に起動プログラムが走るように、スイッチを作っているというようなもんか…。
「だから、全体の38っていう目標見つけるまで、ちょっとリアルになってみたり、人形みたいになったりして、大変だったよ。」
「…全人間型の38パーセント、残っているということだな。それは。」
 ようやく銀次語を理解した蛮はそう呟いて、ばたっと突っ伏した。
「うん。カンタンでしょ?」」
 にっこにっこ笑っている銀次に、とうとう蛮の怒りのボルテージがMAXを越え、ブチ切れた。

「どこが簡単だ!その計算だけで十分金になるわ!このデタラメ野郎!」

 げこしっ

 スネークバイトに近いモノが、銀次の頭を容赦なく襲った。
「ひどーい。蛮ちゃん。ヒドすぎますー。」
 すかさずタレて、きゅーきゅー言い出す銀次。
「ウソこけ!世界デタラメショーで大賞とれるくらいのデタラメさだ!テメーのデタラメぶりは!」
「それをゆーなら蛮ちゃんのパチンコがあたるくらいのデタラ…」

 げしっ

 最後まで言わさず、蛮は踏みつけた。げしげし。きゅーきゅー。げし。きゅーきゅー。という音がHONKY TONKの中を駆け巡る。
 その姿を見ながら、今日も平和だな…と波児は外を見た。現実逃避とも言う。ちょっぴし、その「計算」とやらも聞いてみたいような気がしたが…銀次語が分からないと、分からないだろう。…絶対。

 これもとりあえず、HONKY TONKの日常。


PC-98とか使用していた方ならautoexec.batは良くいじくり倒したことでしょう。
読み取り方はautoexec.bat→config.sys(各種ドライバとか、今ならWINDOWS XPの起動等)になります。

銀次がどうやって計算したのか…それはこれからのお楽しみv