夜明けの向こう側(※分裂ネタ)

ブルルルルルッ。






騒がしいエンジンの音が、耳元で響く。
近くで車が走っているのか。


「あ、起きちゃった?」
「…銀、次?」
「ねーえ、蛮ちゃん。雷帝、起きちゃったよ」


俺が起きてはいけなかったのか?

目を擦ると、こちらを見て苦笑している銀次と
バックミラー越しに見ている蛮が。


「ああ、起きちまったか。よぉ、おはようさん」
「……もう朝なのか?」
「いんや、まだ夜だぜ。しかも、真夜中」


真夜中、そうか。だから、窓から見える景色が真っ暗。。。
……って、ちょっと待て!


「何故、俺は車に乗っているんだ!?」
「それは言えねえな」
「言えない、って」
「ごめんねえ。こればっかりは雷帝にも内緒なんだぁ」


銀次も言えないことなのか?
俺は一体、これからどこへ連れて行かれるんだろう。
三人を乗せたスバルは
街を越え、森を越え、どんどん都会から離れていく。


もしかして、、、
俺は棄てられるんじゃないだろうか?


「わぁっ、そ、そんな哀しい顔しないでぇ〜!」
「……いいんだ、お前が望むことなら」
「ば、蛮ちゃんッ。どうしよう、雷帝がぁ〜」
「ったく、勘違いも程々にしろよな。銀次を哀しませやがって」


銀次が哀しむ、とは?
蛮だけが決めたことなのか??
でも、銀次も納得しているような素振りに見える。

ああ、考えすぎて頭が痛い。


「せっかく、おめでたい日なんだからさ。
 もっと明るい顔してよ。俺まで哀しくなってきたよぅ」
「おめでたい日?」
「泣くなよ、銀次ィ。アレを見れば、分かってくれるって」


アレ、とは何だ?
疑問に思った瞬間、ガクンと車が揺れた。
ブレーキをかけたようで。
スバルは街外れの海岸沿いに止まっていた。


「…う、み?」
「っはー、やぁっと着いたw」
「待たせたな。ここが目的の場所だよ、雷帝サマ」


群青色の海から聞こえる、静かな波の音。
確かに落ち着く、けど。


「……な、」
「そろそろ時間だな。しっかり見とけよ、一瞬だぞ」
「ふふ、三人で見るの初めてだよね」
「???」


蛮の視線を辿ると、それは海の水平線。
言われたとおり、目を凝らして
見つめる、ひたすら。


と、キラリと何かが光った。



「……あ」



太陽が。朝日が昇ろうとしている。
生まれたてのオレンジ。
うんと背伸びをしたくなるような、綺麗な色。


「おー、今年は格別だな」
「綺麗だねー、雷帝。…ら、いてい?」
「……ッ」
「わわっ、どうしよう;蛮ちゃん、雷帝がぁ〜!!」


心配しなくていいよ、銀次。
俺は朝日を見ていることが、幸せなだけだから。
こうやって、三人で見れるなんて。
何て、幸福な時間。

ああ、涙が止まらない。


「さってと、そろそろ行くぜ」
「雷帝?また見に来ればいいじゃない、ね?」
「……でも、」
「波児が、おせち作って待ってんだよ」
「夏実ちゃんもレナちゃんも、俺達を待ってるんだよ」


だから帰ろう、HONKY TONKへ。


蛮と銀次の手が、俺に差し出される。
俺を待っていてくれる人が
ここにも、居る。



嬉しい。ありがとう。俺を待っていてくれて。


来年も、また来たいな。




今度は皆で。



松田聖子の「瑠璃色の地球」の歌詞
「泣き顔が微笑みに変わる 瞬間の涙を 世界中の人たちに そっと分けてあげたい」
というのを思わず思い出してしまいました。
もこ様、本当にステキなお話をお書きになる。自分のがジュクジュクのミジュクモノに見えます。
本当にありがとうございました。