立てばパチンコ、座れば麻雀、歩く姿は馬券買い |
「いいか?銀次。」 「うん…。」 午前8時。サラリーマンやOLがせわしなく歩き回り、車が走り回る時間帯。 二人は行列の中にいた。 シャッターが閉まっているが、ポスターにはでかでかと「新・装・開・店!」と書いてある。 そう、パチンコ屋の前に並んで座っていたのだ。 前もって言っておくが、以前ボコにされたパチンコ屋よりもかなり遠い所のパチンコ屋。偶然拾ったチラシを見て、蛮が問答無用で銀次を連れ出したのだ。 「ここだったら大丈夫だろ。」 頭がすでに確変モードに移行している蛮はうかれ気分ですーぱっぱとタバコを吸っているが、銀次は半分ふてくされている。当たり前だ。すきでもないパチンコで、しかもひゅーひゅー吹き付ける歩道の脇に古新聞を座布団に座り込んで並ばないといけないなんて…。 「ぎーんーじ。勝ったら焼肉な!」 相棒のふてくされモードに流石にどうにかせねば、と蛮がとりあえず撒き餌を用意する。 「それとも寿司がいいか?ここだったら○○が近いから海鮮丼でもいいぞ。」 「○○は○○で○○だから○○だって、この間ホームレスのおっちゃんたちが教えてくれたもん。だから○○のほうで食べたほうが○○だって。」 その放送用語のオンパレードにぴた、と蛮の動きが止まる。無限城の元雷帝は何故かホームレスのおっちゃんたちのウケが妙にいい。たま(?)に蛮がこういう「右手の運動」や「馬しかいない動物園」でボロ負けしてHONKY TONKへ行くと「おー、銀次は今○○の奴らと宴会の最中だぞ。」と波児が言ってくる。話によると、向こうから「銀ちゃんいるかーい?」と出迎えまで来るらしい。…で、飲酒運転は財布が痛いので歩いて行くと、大抵が電磁波で熱した金網の上でバーベキュー大会をやっていて(銀次はニコニコ笑いながらその力を余すところなく使い、礼として一番美味い焼肉をとってもらって食べている)、酒はチャンポンで飲み放題。ホームレスももともとは仕事を持っていたものが多いので、土木・建築・電気工・板金などの資格を持っている者も少なくなく「銀ちゃんだったら俺らで一番いい建物を提供してやるよ。」と何度も誘われたことがあるらしい。また、発電機の調子が悪いから、と直す間の電気供給機になったり、たまにホームレス狩りを反対に狩り返す行為もするらしい。新宿付近で「ぎんちゃん」を知らない者はモグリだ。ぐらいは言われているかもしれない。 「俺、蛮ちゃんいるし、車が住まいだからいいよ。」といつもそう答えているらしいが…。 蛮が迎えに行くと、「あんないい子、男二人の車上生活なんて可哀想に。」 とか「お前さん、いい加減あの子を解放してやんなさい。」とか「三日も食べさせてやれないなんて…いい場所あの子に教えたよ。」とか。銀次がそっぽを向いている時に束になって言われるのだ。 「なんでだよ…。」と不機嫌になって聞いたことがあったが…その後、10人ものホームレスに囲まれ、1時間に渡ってこんこんと自分の諸行を暴露されてしまった。やれあそこのパチンコ屋で何万スッたとか、何日の中山競馬場では馬券を何回破ったとか、何日の府中競馬場では馬券を何回破ったとか、雀荘に通って美人局に会いそうになったとか…到底銀次はおろか他の者にも話せない内容を次々と暴露され、流石の蛮も半分魂が抜けた状態になってしまった。 あなどるなかれ、ホームレス。 邪眼の王もここまで言われれば「バカよわばりしている相棒」以下の馬鹿の扱いになってしまう…。 よって、銀次の『蛮ちゃん早く来ないかなぁ』という心の言葉+30分を目安に向かえに行くことにしている。残った酒と洗い物が待っているその中へと。 「銀次…ホームレスのオヤジどもの話はするな…。」 そのことを思い出し、ぺきっと2口しか吸っていないマールボロを真ん中から折ってしまう。 「えー、おじさんたち、蛮ちゃんの心配もしてたよ?」 「は?」 これは意外と銀次を促す。 「んーと『320円のマールボロは高いんだから、同じ赤マル系の味がして、1ミリ低いけど270円のPALL MALL(ペルメル)吸えとあのウニのアンちゃんに言っておけ』って。」 「…良くお前、そんな長いセリフ覚えられたな…。」 ちょっと感心した後。 「次元タバコなんか吸えるかー!しかもここいらに売ってねーぞ!」 と妙にオタクなツッコミを入れる蛮。 「でも蛮ちゃん、50円違ったらパンが買えるよ?」 「うるせぇ。マールボロがいいんだよ!」 けっと箱からマールボロを取り出して、火をつける。 「おや、あそこの道にある○○パン直営のパン屋知らないのかい?」 と、前のおばさんが話しかけてくる。 「え?なんですか?」 きょろん。と透き通ったまぁるい蜂蜜色の瞳で見つめられ、おばさんはちょっと赤くなりながら「そのパン屋はね、○○パンでちょっとコゲちゃったとか見た目が悪いとかでハネられたパンを3個100円とかで売ってくれるんだよ。」 「へー!どんなパン?食パン?えーと…フランスパン?アンパン?俺、つぶあん派なんだけど…」 銀次がその話に食いつき、おばさんと話し出す。蛮はそっぽを向きながらタバコを吸う。 「へーぇ、そうなんだー。すごいなー。」という言葉が何度も耳に入る。今度は蛮のほうが不機嫌になる番だった。ちょっと銀次のほうを見ると、5人ほどの輪になってパチンコやらナンやらの話で盛り上がっている。たった数分でこれである。全く、人徳というかなんつーか…。 「おやま、あんたパチンコ2回目。確かに慣れてなさそうだもんな。」 「峰」のパッケージをぐしゃぐしゃとつぶしたオヤジが銀次に話しかける。 「そうなんです…実はあまりパチンコ得意じゃなくて…。」 「そりゃあ、外国人だと難しいだろー。兄ちゃん、どこの国の人?」 「え?蛮ちゃんはドイツ人のくぉーたーって言ってたけど、俺、日本生まれの日本育ちですよ。」 ほー。という声があがる。確かに金髪に蜂蜜色の瞳では日本人には見えづらいだろう。…だが、骨格というか様々なパーツは日本人特有のものだ。 ちょっと考えて蛮ははぁぁぁとため息をつく。 稲作民族の背丈に負ける狩猟民族(1/4だけど)の背丈。 アレが全てデタラメなんだ。と結論づけて、蛮は新聞を開く。明後日開催の競馬の予想欄である。馬体重の増減と騎手を見やる。今の所の一番人気は… 「でも俺、こっちくるまで、蛮ちゃんに教わるまで、競馬もパチンコも知りませんでした〜。」 あははは。と笑う銀次。 「お前さん、どこ出身かい?」 「はい?無限城です。生まれは分からないですけど。」 途端、周囲が静まり返る。 「こんな子が無限城で育ったって…無限城って、アレでしょ?3歩入ったら身体全部パーツに別れちまうって。」 「んー、それは入り口付近ですねー。あそこに入る時は気をつけてくださいね。ヨソ者と分かったら、本当にバラバラ解体は当たり前ですから。あと城下町付近の食べ物は何が入ってるか、地元の人でしか分からないですから気をつけたほうがいいかも。たまに一攫千金狙って束で入ってくる人いましたけど、ロウアータウン入る前に身包みはがされて売られてた、とか聞きましたし。ロウアータウン入っても命の補償はありませんが…たまにハクづけ?に来る人いるんですよ。…まぁ、100人中残って1人くらいかな?自分の力がそのまま価値になりますから。うまく根を張ることができたら、一ヶ月に0がたくさんの金額を稼ぐことは簡単らしいですし。…でもまぁ、今は比較的ロウアータウンは安全かな?」 なに無限城の観光案内してるんだか…。しかも何気に明るそうでダークな話だぞ? ボリボリと頭を掻きながら新聞に赤いペンで丸印をつけていく。 「本当に詳しいねぇ、あそこの電気供給ってどうなってるんだい?」 「地下に自家発電機があるんですよ。とんでもないレベルらしいですよ。」 「あんな高いところに住んでいるならトイレとかは?」 「俺は下層エリアって言われてるロウアータウンしか知りませんが、壊れているところもありますけど、使えるところは使えるんで。あ、でも「うぉしゅれっと」っていうのはありませんでした。」 「風呂とかは?」 「さすがに毎日入れませんでしたねー。流石に血がついたりすると入りましたけど。シャワーは100度を越える熱湯と冷たい水が交互に出るので、バスタブに入ってました。」 「んじゃ、コレは?」 「…小指…あ、女の人ですね。はい。そーゆー商売もありましたよ。規模の大きなジャンクキッズとかの幹部とか、コア・メンバーはお金ナシで入れたみたいです。」 へー、無限城ってそーなってんだ。俺でも知らなかったな。 んで、幹部とかって…テメーは行かなかったんだ。そーだよなー。 20人の裸の女によってたかって乱暴(ぷぷっ)された日にゃ、タつモンも萎えるって。 「ジャンクキッズって何だい?」 「あー、うーんと…、バイクとかに乗っていないボーソーゾク?みたいな奴らとか、いろんな技を持った人が中心になって、ロウアータウンを支配しようとしていた人たちのことです。」 おお、お前にしちゃあ、良い説明だ。 「お前さんは、どのジャンクキッズに入ってたんだい?」 「あ、はい。一応、VOLTSっていう所に…。」 一応って…お前が名前決めたんじゃねーのか? 「あんたがジャンクキッズって…VOLTってーのはそんなに人がいなかったのかい?」 「んー、そうですねー。俺が言うのもなんですが、最大だったと思います。カヅっ……四天王と呼ばれる人たちがいて、すごい強いんですよー。」 「VOLTS…四天王…あ。」 今まで話に加わっていなかった者が、突然話に入ってきた。なになに?と全員が視線を向ける。 「そのVOLTSの下っ端が俺の友人の友人にいてよ。四天王も若くて強いけど、そのトップがまた強かったって。一瞬のうちに30人はノシちまうって。眉唾モンだったけどなー。うーん、カミナリ…そだ。『雷帝』って言われてたはずだ。」 「どう?あんた。これ本当の話?」 「…はい。」 「ロウアータウンのディアブロとか、色々つけられてたけどな、ちらりと見るとそれがまた15歳くらいの金髪のガキなんだってよ。そいつみた……い……」 それが銀次を指差しながら止まる。全員の顔がへ?という顔から恐怖にゆがみ… 「やだなぁ。」 苦笑してから、にこっと笑う。 「ディアブロとかそんなことしてる人なら、こんな所でパチンコで寒い中行列作って待ってるはずないじゃないですかー。あったかいところで女の人としっぽりですよー。きっと。」 「そりゃそうだな。」 ごめんごめん。と銀次の背中をバンバンと叩きながら謝る男に「長話させちゃったね。」とポットから暖かい茶を入れて手渡してくれるおばさん。 「ありがとう。」 にっこりと笑った銀次は、本当に嬉しそうだった。 暫くまた色々雑談に戻った周囲からぽんっと抜けて、銀次は蛮のもとへと戻ってきた。 「蛮ちゃん、なにしかめっ面して…って、エッチぃ所朝から見てないでよー。 」 「るさい。キヲスクとかで買わないとこーゆーのはついてこねーんだよ…って。なぁ。図星さされそうになってギリギリで回避したカミナリ小僧。」 その言葉にう。とつまる銀次。 「で…でも。」 「ベルトラインの襲撃とか、死人の話とか、墓の話とかはしなかった。だろ?それに関しては上出来だ。」 無限城とこっちの違いは、殺人が恒常的に起きているか、そして殺人は「罪」である。ということだ。奪還屋をやる前、まだ「カミナリ小僧」「美堂くん」と呼び合っていたころに徹底して教え込ませたことの一つである。 「ありがとう。蛮ちゃん。…でもね。教えなかった理由はあるんだよ。」 「なんだ?」 「『こっち』の人たちには、無限城というのはあくまで「他人」のものなんだ。裏家業とかやっていない限り、決して表には表れないし、また、見せない。」 銀次の言葉の裏に隠されたものが何か分からなくて、蛮は新聞から目を上げる。 「『無限城!侵入!』とかそういう番組とか本、見たことある?」 そういえば、と思う。波児はともかく夏実は無限城のことは全く知らなかった。知識としてはそこで輪になってしゃべっている一般人レベルだろう。 そこまでいって、蛮ははっとして銀次の顔を見た。銀次はニコッと笑い、 「テレビカメラは一撃でオシャカ。」 ぴっと人差し指をあげる。ピチピチと小さく音が鳴っている。 「全部没収の上、部下に頼んでテイチョーにお帰りいただきました。どんなメディアの人にもね。」 ロウアータウンに住んで、この暮らしがどうこう書こうとしていた、じゃーなりすと?という人もすぐにマクベスが見つけて追い出したし。と銀次は続ける。 「あそこはあそこだけの問題であって、普通の人が知るべき所じゃない。」 そう、それは。と銀次は続ける。 「ここのパチンコ屋で「出る台」を教えるレベルじゃないから。」 「ちょっーーっと待て、銀次。」 ばさっ、と新聞を下に置いて蛮は話しかける。 「お前、その台の番号…。」 蛮の喉からでるほど欲しい番号… 「うん。無限城の話のお礼って、5箇所教えてくれた。」 あっさりと銀次は答える。 「番号を教えるから、俺、てんとう虫くんに…。」 「いやいやいやいやいやいやいやいや。」 立ち上がりかけた銀次の両肩をしっかりと掴み、無理やりに座らせる。 「いいか?銀次。」 「うん?蛮ちゃん。」 「教えた台にお前が座っていなかったらどう思う?」 「うーん…悲しい、かなぁ?」 でもパチンコ好きじゃないって前に言っておいたけど…とぶつぶつ呟く銀次の頭を一発殴っておいて、銀次に「これを持っておけ。」と手渡す。マールボロの箱。 「蛮ちゃん、俺、吸わないよ?」 「いーんだよ。それがパチンコの場所取りのアイテムだ。」 「場所取り?」 右斜め45度に傾斜した銀次の頭にデコピンかましながら蛮は説明する。 「いい所はどんどん埋まっていく。だから入ったら即効で玉が流れる場所がベストだが…難しかったら、ドル箱の中にこれを入れておけ。」 番号がかなりとんでいるから、近くにいることはできない。と告げると、またもブーイング。それも問答無用で殴って黙らせ、今度は手を引いて立ち上がらせる。周囲も立ち上がり始めた。時間だ。 「さー、ジャンジャンバリバリいきましょかねー。」 タバコをポイ捨て(してはいけません)しながら蛮はクククと笑った。 「…じゃんじゃんばりばりお金がなくなるんじゃ…。」 また頭を殴られた。朝早く起こされて、寒い中待たされて、殴られてばかりでは銀次もだんだんとムカッ腹がたってくる。 「じゃあ、置いたら帰るから。」 「それもだめ。」 「帰りたい。」 「帰らせない。」 「かえりたい〜」 「無理だ。諦めろ。」 「い゛やー!い゛やー!」 「うるさい。」 「また殴るー!」 「愛の鞭だ。」 「ムチはお馬さんにピシピシするヤツでしょ?」 「違う用途もあるけどな。」 「はへ?どんなこと?」 「…朝から語ることではないことは確かだ。」 「蛮ちゃんのえっちー。」 「てめーの場合のムチは「む」に「知る」と書いて「無知」のほうだ。「愛の 無知」。愛の戦士気取っているならピッタリだな。」 「…ばんちゃん…………」 「おい、電撃はよせ。さっきおばちゃんらに「雷帝」じゃないって言ったばかりじゃねーか。」 「…そうだね。」 「おお、シャッター開くぞ。」 ガラララララとシャッターが開いて、独特の明るさが待っている人たちの目をぎらぎらとさせる。 「行くぞ!銀次。」 「行くのー?蛮ちゃん。」 とってもやる気のない銀次であった。 |
さて、説明。
・確変=確立変動モード。別に銀次から雷帝に入るわけではありません。大抵のパチンコ台では、奇数3つ、もしくは特定絵柄3つ揃うことで確立変動モードへ突入します。これでドル箱(玉を入れるプラスチックの箱)は最低でも2箱(パチンコ屋にもよりますが3500〜5000玉が入る)保証されます。確立変動の最中にまた奇数3つ、もしくは特定絵柄3つ揃うと「2連チャン」といい、偶数がでて、「〜連チャン」は終了します。それから時短モード(普通より当たりが出やすいモード。大体100回(それ以下も増えているか)〜150回回す(この場合、ハンドルを回すのではなく、中央にある液晶のスロット画面が回転するのを1回転とする))になって、通常画面に戻る。朝からやって、昼食はさんで夜までドル箱積めた人はすごい人でしょう。気力的に。私が知っている限り、最高のドル箱は50だったか。1玉4円と換算して、一箱4000玉、16000円×50。右手が震えたといってましたが…確かにそうでしょう。だって電気流れてるもん(笑)。昔どっかでやった「右手の運動」は、500円で逃げたことあるなぁ。本当に電流強すぎてシビれちゃって(笑)。
・ペルメル マールボロのニコチン・タール量を−1して、ほんの少し味が変わるだけで50円安くなる、実はJTの中でチャコールフィルターが付いているタバコでは一番安い?タバコです。で、次元タバコといっていますが、「ル○ン三世」の次元が吸っているからです。
あ、マルもそうですが、殆どのチャコールフィルターが付いているタバコは、チャコールフィルターでニコチン・タール量を調整してます。
チャコールフィルターとったタバコを吸うと、(キセルやゴールデンバッドの緑紙のほうで慣れていないと)確実にふらふら〜っと倒れます。
あと、口にタバコの葉がついて、いい気分ではありません。
折ったタバコは辞書の紙でリサイクル♪手巻きタバコのメッカ、イギリスの紳士が言われた言葉です。