魔 法 の 言 葉



 たまーにあるのだ。
 そうすると、夏実とレナのお目目がハート型になる。
「やっぱ、すこし影のある男の人って、ステキですよねー。」
「そうですよねー。」

 きゃぴきゃぴv

 対する男性陣はため息一つ。
「おい。」
「何だよ。」
 コーヒーを二人に差し出しながら、波児が言う。
「そろそろ戻さねーと面倒じゃないのか?」
「あー、そうだな。」
 隣を見る。ヘアワックスも使用していないのに重力を無視したヘアースタイル。金色の髪。そして顔は無表情。

 見事なまでの雷帝仕様である。

 蛮曰く「半分雷帝だから、きっかけがあればすぐに戻る。」とのこと。
 こういう時、下手に話しかけると電撃がとんできたりするので波児はどうすることもできない。
 だが、慣れているのか、蛮はあっという間に「銀次」に戻してしまうのだ。

 しかもたった一言で。
「んじゃあ、ちみっとやっちまうか。」
 コク、と美味しいコーヒーを飲むと「おい、耳かせや。」と隣に話しかける。

 ごにょごにょ。

 途端、雷帝状態だった銀次はびくぅっと身体を震わせて…10秒後にはいつもの銀次に戻っていた。
「あー、またなってたんだ。ありがと。蛮ちゃん。」
「おお。いい加減しておかねーと、ブチ切れるぞ。」
「うん。わかった。蛮ちゃんありがと。大好き。」
 もういつもの二人である。


 こんなことが何度も続いたある日のこと、ついにレナは銀次に尋ねたのだ。
「銀次さん、半雷帝化している時から銀次さんに戻るとき、蛮さんにいつも何か言われてますよね。何言われてすぐに戻れるんですか?」

 この場には蛮はいない。また「右手の運動」に行っている。
「えー。言っていいのかなぁ。」
 金色の髪の毛をこしゃこしゃしながら銀次は入り口を見る。蛮の気配はしない。
「平気だ。ここの全員は口が固いのは知ってるだろ?」
 と言いながら、波児は夏実とレナに「他言無用だぞ」の視線を送る。無論、二人とも頷く。
「うん…。蛮ちゃんの言葉は一つだけなんだ。…でも、あんまり言いたくないなぁ。」
「何でですか?」
「んー?なんか「言葉にはチカラがある」って言うみたいだから…。」
「平気ですよ!蛮さんは目にチカラがあるんですから。言葉にはチカラはないはずです!競馬でもパチンコでも「当たれーっ!」って言っても当たらないじゃないですか。」

 なんつー説明の仕方だ?

 夏実の言葉に波児は頭を抱える。
「…そっか。」

 納得するな!銀次!

 このところ、気にしてきた腰痛がぞろぶり返してきた気分になる。
「ん。蛮ちゃんがいつも言う言葉は決まっているんだ。それはね…。」

 んー。とさすがに言いづらそうにしながらも、銀次はその言葉を口にした。

『そんなに髪の毛逆立つくらいまで電気発生してたらハゲるぞ。って。』

 波児の口からタバコがぽとりと落ちた。
 夏実の顔がひきつり笑いになった。
 レナの顔が困った顔になった。

「前にね、ウニな頭の蛮ちゃんに「その頭はハゲないの?」って聞いたら「テメーと違ってこれはせーはつざいで固めてるし俺様は天才だからハゲないんだよ。」って言ってたから。

 天才とハゲは関係ありません。ああ、もう、おばかさん。

「だって想像してみてよ!ハゲになった俺が、つるつるの頭のてっぺんから稲妻発生させたら…なんか…バカじゃん…。」

 想像したのか、銀次はがっくしと肩を落とす。
 反対に、想像した三人は…腹筋が痛くて涙をこらえてた。

 つるつるの頭から発生する雷………。

「確かに男なら心配になることだよな。」
 いつもの口調で話す波児。真っ黒なグラサンの下をこっそり拭ったのは何故?
「うん。だからハゲないよう、あまり雷帝にならないように頑張ってるのです。」
 むん。と拳握って誓いを新たにする銀次。誰も何もツッこまない。…というかツッこめない。
「…おー、頑張れよ。」

 波児は「サービスだ。」と言って、サラダを出した。

「なに?この緑色のぶよぶよ?」
「髪の毛にいいんだぞ。抜け毛予防だ。「ワカメ」って言うんだ。」
 ちょいちょい、とフォークでいじった後、突き刺して、口に入れる。
「おいしい。なんかフシギな口の中。」
 ぱぁぁぁっと顔が明るくなる銀次。その姿に微笑を浮かべながら
「触感。って言うんだよ。」
 と波児は教えた。
「しょっかん?え、虫さんがにょーってはやしてる、二本のアレ?」
 銀次が頭の後ろから人差し指立てて「にょー」っとやる。
「それは「触覚」だ。蛮じゃないけど、もう少し日本語覚えろ。」
「はーい。でも美味しいね。サラダ。美味しくて、髪の毛も安全。すごいね。波児、良く知ってるね。…って、波児もハゲ、心配してるの?
「まだ心配してない!」
『まだ…?』
 銀次、夏実、レナの視線が波児に集中する。
「蛮ちゃんが「まだ」って言ってる時は手遅れって言ってたよ?」
 心配そうに(波児の頭を)見る銀次。
「平気なんだよ俺は。見ろ、このフサフサ。」
 フサフサな頭を銀次に見せ付ける。
「あ。」
 レナが小さな声をあげてしまった。
「どうしたの?レナちゃん。」
 隣の夏実が心配そうに尋ねる。
「マスター…あの………」
 今度はレナが言いにくそうにしている。
「平気だよ。レナちゃんの言いたいこと分かったから。」
 えっへん。と銀次は食べ終えたサラダにちゃんとフォークを置き「ごちそう様」と言ってから、波児に向かって言う。

「白髪が3本あるんだよ。波児。」

「…………………。」
 銀次は雷撃を扱う。だがたまに言葉で雷撃を扱う。
 この場合はまだ優しいほうだ。「3本もある」「3本しかない」とも言わな
かったから…。

 波児は急に痛くなってきた腰を撫でながら「そのことは蛮に言うな。」とし
っかりと銀次に釘をさした。
 ん?と首を傾げたが「うん。分かった〜。」と元気な言葉で銀次は返した。


 ああ、これもとりあえず、HONKY TONKの日常。


あらゆる意味で波児ファンの方々、ごめんなさい。
いや、雷帝の頭みてたら…つい…アホな考えにベクトルがいってしまって…。
あらゆる意味で土下座系SS。すみませーん。
でも銀ちゃんは多分、前髪もポニなエミやんにも同じ言葉を言っているでしょう。
…笑うに笑えない笑師。それも問題だ(笑)。