私の無限城体験


 いつもの公園に車を止めて、夜を過ごすとなると、たまに蛮が外にふらりと
出て行って、朝方帰ってくることが多い。銀次には鍵を渡していないので必然的に銀次が留守番となる。
 二人だけの時は、たまに銀次が「ちょっと出かけてくる」と言って、20分ほど出かけてくる。そういう時は蛮は何も言わない。「おぅ」と声を返してとっとと銀次を送り出す。
 ある夜のことである。いつもの通り20分くらいで戻ってきた銀次にニヤニヤ笑いを浮かべながら蛮は言った。
「無限城の雷帝も「右手がコイビト」の自家発電かー。」
 その言葉にうっ、と少し赤くなると「しかたないだろー!男なんだから!」
と返ってきた。
 つまりは、自家発電…自慰行為をしてきたと言って来ているのだ。
「なーに、無限城ではオンナよりとりみどりだったんじゃねーのか?」
 ニヤニヤ笑いを浮かべながら蛮が問いかける。するとちょっと銀次が困った顔をする。そしてそのまま表情は暗くなる。
 冗談で言った言葉がそのまま銀次の表情を暗くする原因になったと少し蛮は驚く。
「な、無限城にゃ、オンナ、結構いたよな?」
「…いたよ。商売にしてる人もいたし、その他の理由でいた人もいる。」
 でも。と、銀次は足を折りたたんで体育座りして答える。表情が隠れる。
「じゃあ、何で?」
 ややあって、銀次の答えが返ってくる。
「……にしたんだ。」
「え?」
 隣を向く。銀次は下を向いたまま、何も見ていないようにしている。
「…俺の命令で、VOLTSの四天王及びコア・メンバーは全て買う以外の女性の接触を禁止にしたんだ。」
 はぁ?と蛮は驚いた顔で銀次を見る。説明をしてもらわないと分からない。
「…VOLTSに入ればそれなりの安全が保障されたのは確かだった。だけどそれは完全じゃない。もっと命の保障が高くなるように…女性は自分の身体を差し出してきたんだ。」
 商売女、家族を持つ一人娘、後ろに黒いバックを持っている女とか…とぽそぽそと続ける。
「決定的だったのは…マクベスと二人で散歩しながら、二人でよく行く見晴ら しの良い部屋に行った時だった。そこにいたんだ…。」
「何が?」
 流石に笑いをなくした蛮が尋ねる。銀次はすぅっと息を吸うと、答える。
「全裸の…女性。」
「それだけか。」
 まぁ、何歳の時だか分からないけど、10代前半くらいには目の毒だったろ
うに。
「ううん。それが20人ぐらい。」

 ぶっ

 蛮は思いっきり吹いた。ナンですか、そのエロビデオにでも出そうな夢のようなシチュエーションは!
「彼女たちが全員、俺とマクベスに襲い掛かってきたんだ。」

 理由は一つ。ただ自分の命の保障。それだけ。

「仕方がないから全員を軽い電撃でのした時、俺はほぼパンツ一丁で…キスマークだらけ。マクベスは…もう少しで筆おろし寸前。」

 うわぁぁぁぁぁぁぁ。

 助手席の銀次がぽつぽつと言う言葉に、蛮はどう対処すれば良いか分からないまま、話が続く。
「泣いてすがりついてくるマクベスと、とりあえず人気の少ない道を選んで戻
ったら…VOLTSのコア・エリアはすごい有様だった。」
 見張りはおろか、VOLTS構成員と分かっただけで、彼女たちは自分たちの武器である身体を差し出したのだ。
「そこの草場で、コンクリートの陰で、そしてそこらへんでヤッているだよ。昼間から。」
「……………………」

 冗談抜きのエロビデオの世界…………流石の蛮も声が出ない。

「マクベスには見せないように、さて、どうしようか。と考えてたら、カヅッちゃんの糸が俺の右手にきて、とりあえず逃げられた者たちの緊急避難場所に行くことができた。」

 決断は早かったし、四天王もその場で了承…すぐに頷いてくれたよ。その場に居合わせなかった笑師はぶーたれたから、糸と電撃が飛んだけど。

「カヅッちゃんは糸があったし、ちょうど十兵衛もその近くにいたから無事だ
ったけど…士度は俺と一緒でパンツ一丁で逃げ込んできたよ。キスマークだらけで、冷や汗脂汗まみれで。」

 あれは、ベルトラインの襲撃よりも怖かった…。

 ふぅ。とため息をつく銀次。
「だから、俺は右手がコイビトでもいいんだ。」
 この言葉だけだと情けないような気がしないでもないが、体験談を聞いてた蛮にはその気持ちがひしひしと分かった。

 そりゃーアダルトビデオは商売だけど…同じシチュで商売抜きの命がけというのは…嫌だわな。

 無限城で暮らすというのはどれだけ恐怖を伴うか、銀次のそれだけでも少しは理解できた蛮だった。

「で。」
「ん?」

「オメーはいいとして、他のヤツらは?」
「うん。俺が決めたことだから皆守ったみたいだけど…そのころからかなぁ。」
「何が?」
 ちょいっと首を傾げながら銀次が話す。
「朝起きたら自分のベッドの横に黒こげの死体があったり、俺の顔をじーっと見て、ぴゃーっとどっかに行っちゃうヤツとか…。」
「おい。」
 それって…。
「カヅッちゃんは「心配ですから」って言って、水浴びしている俺の見張りしてくれるようになったり、士度は「今日は寒いからみんなで寝るぞ。」って動物たちと一緒に来たから一緒のベッドで寝たり、マクベスは半泣きで「一緒に寝ましょう!」って言ってベッドに入ってきたり…。」

 ………………………。

「良くお前、無事だったな。」
「え?何が?」
 その言葉にはぁぁぁぁぁぁぁと深いため息をつく。あのツンツンした顔の雷
帝の時でさえそうだったのだ。今のこのほえほえお子ちゃま顔の銀次は、ビラ配りしている最中でも男女問わずナンパされている。このごろそれにムカつく自分がいて……

あれ?

 ばっと思わず助手席を見る。銀次は体育座りのまま眠ってしまったらしい。

 その白い首筋を見て…………何故か赤面して…下を見る。

「…………」

 蛮は無言でそっと車のドアを開けた。行く先はさっき銀次が行った場所。

 明日から、銀次を(そーゆーのから)守ろう。…自分のために。

 そう決心した、蛮だった。


本当に、良く無事だったね、銀ちゃん……。
これからは蛮ちゃんが守ってくれるよ。