サンタさんへのおくりもの |
12月も半ばになりました。 雪がしんしんと降ります。この小さな村にもちゃんと降ります。おかげで誰も外へは出られません。 銀次は、困ってました。 この村は、昔から「サンタクロースが最後に来る村」で、村人たちはいつも大きな靴下に「世界の子供たちにありがとう」の気持ちを込めて、酒やタバコや…コンビニでは隅に置かれるよーな読みモノを入れたりします。 ところが、今年は例年にない大雪。 銀次の家には、「サンタクロースを喜ばせるような物」が全くありませんでした。この大雪で買い物にも行けない有様。とっても困ってしまいました。 「たれ、どうしようねぇ。」 困った顔をして、銀次はそれをだっこしました。 「うきゅ?」 不思議そうな顔をして銀次を見る顔は…銀次そっくり。 「このまま大雪が降り続いたら…サンタクロースさんに何もあげられなくなっちゃう…。」 一人と一匹は、窓から外を見ました。雪はまだまだどんどんと降ってきているようです。 「うきゅう。」 たれ、と呼ばれるのは、この地方でしか見られない、不思議な生き物です。食べ物が大好きで、とっても恐がりで、滅多に人の目には入らないのですが、ある時、魚つりをしている銀次の釣り針にかかった魚を食べている姿でつり上げられました。その時は魚をおなかいっぱいに食べさせて、森に返したのですが、どうしたことか、このたれは銀次についてまわるようになりました。見た目もそっくりだったので、村人たちは「たれ銀」と呼ぶようになりました。いつでもいっしょ、どこでもいっしょの一人と一匹。色々とありましたけど暮らしていました。 「今日も寒いねぇ、たれ。」 「うきゅう。」 一人と一匹は同じベッドに入りました。銀次もあったかいのですが、たれ銀も結構あたたかく、湯たんぽ代わりになっていました。 「どうしよう…」 たれ銀の頭をなでながらも、銀次は一生懸命考えているようでした。でも、この大雪ではクリスマスまでにはサンタクロースへの買い物はおろか、食べ物ですら買いに行くことができないでしょう。 「うきゅう…」 たれ銀は決めました。 だいじなだいじな銀次を悩ませている、さんたくろーすにひとあわふかせてやろうと。 そうこうしている間に、銀次のほうが先に寝てしまったようです。 たれ銀はそーっと起きあがって、小さくビチビチいわせながら窓へと行きました。森にいる他のたれたちにお願いをするためです。 窓をあけ、うきゅーと鳴いて、ビチビチビチと手を鳴らしました。それを三回。他のたれを呼ぶ合図です。 しばらくして、しんしんと雪が降る中、ビチビチという異音がしてきました。森にこっそりと住んでいるタレたちがやってきたのです。 たれ銀は窓を完全に開けると、外へ出ました。他のたれに会うなり、むっちりむちむちしたほっぺたをむちゅっとあわせる。これがたれの挨拶のしかたです。 何度もなんどもむちゅむちゅっとしたあと、たれ銀は他のたれにお願いしました。みんな首を振りましたが、一匹だけ、ぴっと言ってどこからともなく一つのモノを取り出しました。 クラッカー、という、糸を引っ張るとパーンとなるアレです。 あげる。とタレはタレ銀にクラッカーを手渡しました。ありがとう、ありがとう。と何回も左右のほっぺたをあわせました。 ばいばい、と手を振ったたれ銀は、急いで家へと戻りました。戻って、こっそりとクラッカーをしまうと、ベッドの中に潜りました。銀次は冷たいたれに少しびくっとしましたが、すぐに抱きしめるとくぅくぅ寝てしまいました。 たれ銀も、一緒にくぅくぅ寝ました。 クリスマス・イヴになりました。どこの家も、大きな靴下の中に酒やタバコ、それにエロ…いや、子供が読まないようなムズカシー本を入れて、早々に寝てしまいました。 銀次は仕方がなくて、「ごめんなさい。来年はいっぱい買います。ですから今年はこれで許して下さい。」とあめ玉を一つだけ、大きな靴下をピンで止め、窓の下に吊しました。 ため息をつくと、銀次はたれ銀をだっこして、いつものように眠ってしまいました。 すぅすぅ。と銀次の寝息が聞こえてくると、たれ銀はビチビチとベッドから這い出て…ぽてんと落ちました。んしょ、と起きあがると、ビチビチと窓と大きな靴下がある所へ行きました。 「んっんっんっきゅー!」 たれ銀は、ぴょーんととびあがると、ぼふっとその大きな靴下に入りました。そしてどこからともなくクラッカーと取り出しました。 さんたくろーすがきたら、ひっぱっておどろかせてやる! 銀次をあんだけ心配させたんだから!とドキドキしながら待っていました。 シンシンシン 雪が降ります。 くぅくぅくぅ 銀次が眠っています。 気づかないうちに、たれ銀もいつしか眠りについてしまいました。 真夜中、シャンシャンシャンとベルの音高らかに、この世界中に子供たちにプレゼントをあげていたサンタクロースたちがやってきました。みんなほくほく顔です。ここがないと今年もしめられないなー、と口々に言いながら。 蛮はけっとマールボロの吸い殻をポイ捨て(良い大人はやってはいけません!)しながら、譲られたばかりのそりとトナカイに乗ってました。実はこの蛮サンタは世界中の子供たちに初めてプレゼントを送り届けて、イライラしていたのです。 (…ったく…今時の子供は…ニンテンドーDSとかPS3とかほしいとか言いやがって…俺のほうがほしいぜ。) 作者も全く同意見です。Wiiがなかったのは時期がちょうどクリスマス商戦の時に発売され、またたくまに売り切れてしまったからです。とりあえず蛮は購入済み予約券を入れてきました。今時のサンタはこれくらいしないといけないのです。 「ちっ…タバコも雪でしけやがる。サイテーな日だな。」 こーゆー日はタバコと酒でのんびりと…と思っていただけに、急にサンタやれと言われ、ツケをひらひらとさせられ、どーしょーもなく引き受けた蛮でした。 他のサンタは続々と家々に降りていきます。蛮を乗せたそり「てんとうむし」もその家の近くへ降りました。 この村には煙突がありません。ですからサンタたちは悠々と玄関から入っていきます。煙突やら窓やら出入りさせられた身には、非常に有り難い心配りです。…気分は不法侵入者ですが。 蛮も実はウキウキしながらこの時を待っていました。できればタバコはマールボロ、酒は何でもいいけどできればワイン。オコサマが読まない本はオタノシミ…として。さぁ、何が入っているか。 蛮は窓に吊り下げられているモノを見ました。瞬間。 ぶっ そりゃもう、驚きましたよ、ええ、驚きました。首から上の毛が飛び出るくらい驚きました。 小さい生き物が、クラッカーを手に、くーかーくーかー寝ているではありませんか! 蛮はそーろりそーろりと近寄っていきました。そしてその物体を見た瞬間、とんでもないショックを受けました。 た…たれ…! この地方にしかいない、不思議な生き物。この地方では言われてませんが、他の所ではそれを飼っているだけで幸せが舞い降りるという言い伝えさえあります。しかも、髪の毛の色は金色。珍種です。 う、うぉーっ! 誰だ!誰なんだ?こんなトンデモネー物を俺様にくれちまうよーなトンデモネーヤツは! 蛮は興奮して、ベッドの中をのぞき込みました。すると… 「………」 すぅすぅと眠っている…自分と同じくらいの歳でしょうか。彼をばっちりと見てしまいました。 「うぉっ!」 もう少しでこっちも連れて帰りそうになりました。それだけ蛮のハートにズキューンでバチーンでドカーンでパンパカパーンだったのです。 しかし、サンタクロースの掟には従わざるを得ず、蛮は大きな靴下に入ったたれを手にすると、逃げないように大きな靴下ごと持って帰りました。 目が覚めたら、何だかもぁっとしてました。 なんだ?とおもったら、けむりでした。 火事?銀次、火事だよー!と起きあがったら、ぽてんと転げ落ちました。 「んあーんあーんあー!」 びっくりしてギョッて感じで見回すと、そこは銀次の家ではありませんでした。銀次の家の床は木でしたが、なんか布が敷いてあるみたいです。 「おい、なんか驚いてるぞ?」 知らない人の声っ! 「いーんだよ。もらったモンなんだから。」 知らない人の声っそのにっ! たれ銀はゆっくりと顔をあげました。ふしぎな所でした。 銀次がいる雪まみれで寒い寒いところではなく、ぽかぽかと春みたいに暖かい所でした。そこで誰かが何かをしています。 「そんなこと言って、蛮さん、タレは幸せを呼ぶんですよ。」 知らない人の声っそのさんっ!しかも女の人っ! 銀次の家では殆ど聞かない声にタレ銀はあわてました。なんでなんでなーんで?どうしてどうしてどうして?モリヤヒロシの「僕はないちっち」なんて今時の若い人には全く通じないネタを連発してタレ銀は驚いてました。古いっ! ひょいっ、と突然抱き上げられました。びっくりする間もなく、自分の足では…というより自分の背丈よりも高い椅子に座らせられてしまいました。 「ほれ、飲め。」 目の前には…くんくん…ココアです。銀次の家では殆ど飲めなかったココアです。 「バリバリ泣いているからな…」 目の前の人に言われるまで、タレ銀は自分の目から滝のようにざーざー泣いていることに気づきませんでした。涙を止め、よーくふーふーしてから飲みました。 「うきゅ。」 こくこく 「あ、飲んでるのんでる〜。」 「タレも人間の飲み物を飲むんだな。」 シッケイな。銀次の家では牛乳も飲んでました。ぷー、と頬を膨らませてぷぃっと横を見ました。 白いシャツに、紫色のメガネ、あおいあおい目…とウニ? ウニ人! タレ銀はとっても驚きました。海に住んでたというタレから聞いたことがあるだけでした。自分たちの両手くらいだよ。と聞いていたのに、どうでしょう、自分の頭よりも大きいかもしれません。 「きゅ…」 とりあえず、登ってみることにしました。よじよじ。 「な…!」 「タレちゃん!」 ウニ人も、オンナの人も驚いてるようですが、タレ銀は気にしません。すぐに頭の上に乗ってしまいました。 あれ?食べるところは? きょろ? そのままかじるのかな?それは痛そう。 きょろ? 何かでかち割るのかな?確かに固そうだけど… タレはどこからともなくハンマーを取り出しました。思い切り打ち付けようとして…そのウニ人によって止められました。 「おい…何やろうとしている!」 こわいです。銀次もたまーにらいてーになりますけど、それ…よりかは怖くはないかな?でも怖いものは怖いです。 「うきゅ!」 ハンマーはもとのところへしまって、ウニ人と目をあわせました。怖いです。 「俺のことをなんで殴ろうとしたんだ?ええ?たれの分際で。」 ぎりぎりと右手が頭に食い込みます。たれは基本的に柔らかいですが、おつむだけは固いのです。 「きゅーきゅー。」 ウニ!ウニ!ウニ人の右手は痛い〜 「きゅぅ…」 たすけて… 「ぎーじ…」 銀次… 「おや?」 「あれ?」 ウニ人に掴まれたタレは泣きながら、初めて鳴き声以外の声を出しました。そこまで人を愛しているタレは誰も見たことがなかったでしょう。 「ぎーじ?」 ぎーじじゃないもん。銀次だもん。 「ぎーじ、きゅう。ぎーじ。」 ビチビチと手足を動かしたら、そっと左手が回されて、だっこされました。 「きゅ?」 「とりあえず、サンタクロースは二度とやらねーぞ。」 ウニ人=サンタクロース?(がーん) 「ツケ返したらな。」 「蛮さん、またー。」 タレがびっくりしている間に、ウニ人こと蛮は、自分の家へと帰っていきました。 蛮が帰った所は、銀次の家もおんぼろでしたが、それに負けないくらいのおんぼろのおっきな家の一つでした(後から蛮に「アパートってんだよ!」と教えられてびっくりしました)。入ると色々な物が置いてあります。銀次の家には殆どなかったので、その物の多さにタレはびっくりしました。玄関の近くにタレを置いて、蛮はそのまま入っていきます。 「…ったく、何がサンタクロースだってーの。」 蛮は腰をおろすなり、タバコに火をつけました。タレはその姿をぼんやり見てました。 ヒトはこわいです。でも、このヒトは…? …ビチ。 「へっ?」 その音に驚いたようです。蛮はタレ銀のほうを向きました。 …ビチビチッ びっくりして、タレ銀もとびあがりました。 「…お前の音かー。おい、来い。」 手をちょいちょいとふられて、タレ銀は悩みました。でもピーンとキました。キちゃいました。 もしかしたら、このヒトは、銀次を知ってるかも…! ビチビチビチビチビチ タレ銀は、んしょんしょとあぐらかいて座っている蛮の間に座りました。 「おい、タレ。」 「うきゅう。」 そんな名前で呼ばないでください。オレにはタレ銀次という名前があるんです。 「うきゅう、うきゅう、きゅう、きゅぎーじ。」 「ぎーじって、あの家で眠ってたヤツか?」 ぎーじではありません! 「ぎーじっうっきゅう!」 「…何怒っているんだ?テメェ。」 蛮はぷーかぷーかとタバコを吸います。 「ぎーじ…。」 銀次はきっと、あの雪深い中、自分を探しているに違いありません。 「ぎーじ…ぎーじ。」 この場所には、タレの気配が全くありません。他のタレを呼んで、銀次を呼び出せません。 あ、そだ! タレ銀は、ぱっとそれを取り出しました。 「おい、何クラッカーなんか取り出してんだ?」 いぶかしげな蛮なんかうっちゃって、タレ銀は一生懸命「らいてー」にお願いしました。 銀次はひとりぼっち。 だから こっちに来て。 なんかヒトがいるから。 やさしそうなヒトがいるから。 来て。 銀次。 らいてー、いい? 銀次、そこからつれだしていいでしょ? らいてー、お願い。 ピシッ タレ銀が急に電気を発しました。流石の蛮もタレ銀をとりあえず置いて、部屋の隅へ移動します。 ガラガラガラドシャーン! その時、近くに急に雷が落ちました。何だ何だと慌てる蛮。ふっと消える電灯。その中で、タレ銀と、クラッカーが光ってました。 「ぎーじ!」 タレ銀は、クラッカーのひもを引っ張りました。 パーン! クラッカーは、近くで大きなスパークが起きたような音を出しました。 どさっ ついでに、ひと一人、落ちる音。 「えっえっえー?」 蛮の家に湯気と聞き慣れない声がします。 「ぎーじ…」 ぽてっとクラッカーを落とすと、タレ銀はビチビチと進みそして… 「ぎーじ!」 湯気がきれかかった彼へと抱きつきました。湯気まみれ…ということで、彼…銀次は全裸でした。 「た、たれ!」 銀次は驚いて、すりすりとほっぺたを押しつけてきゅーきゅー泣いているタレをあやしてました。 蛮は…というと、鼻血が出そうになってました。そらズキューンでバチーンでドカーンでパンパカパーンだった相手がすっぽんぽんで目の前にいるのです。銀次の村近くにある森に棲む「バケモノ」ではありません。「ケダモノ」といいます。で、そのケダモノは尻尾を隠すのも得意です。 「おい、テメェ…。」 とりあえず一人と一匹の世界を創り上げている中にずかずかと入り込んでみました。一匹はそれほどではありませんが、一人のほうはびっくりして、とりあえず手にあったモノで股間を隠しました。 「うきゅっ!」 …確かにタレ銀はうまく隠してくれました。顔がビミョーな所に当たらないように、胴体で。 「あんた?タレを盗んだのは?」 きっと銀次は睨みました。ただし、股間でもぞもぞとタレ銀が動いているので情けないといえば情けない姿です。 「はぁ?そいつ、自分で靴下ン中入ってたぞ。」 「え?ウソ!」 ホント?と銀次はタレ銀に尋ねます。うきゅう。と肯定の返事(蛮にはただの鳴き声にしか聞こえません)が恐る恐る返ってきたら、銀次の両の瞳からぽろぽろと涙が出てきました。 「心配したんだから!もう少しで雷帝に尋ねる所だったんだよ?」 「うきゅう…」 その言葉にタレ銀もぽろぽろと大粒の涙を浮かべました。銀次がらいてーを呼ぶ。それは銀次にとっても、村のヒトたちにとってもとんでもないことだったのです。 「あの…もしもし?」 蚊帳の外にまたおっぽり出された蛮はまたそろーりそろりと入り込んでみました。 「…あっ、ごっ、ごめんなさいっ!た、タレがお邪魔しちゃって。」 ぺこりっと頭を下げると、金髪に含まれた水がびしぃっと蛮に当たりました。いてっと思いましたが、それでもかまいませんでした。 「えーっと、あ、俺、天野銀次といいます。お礼はどうすればいいんでしょう?お金持ってません。…というか、俺、すっぽんぽん?えーっと、えーっと?」 ちょっと天然入っているのか、上目遣いできょろっと見やってくる姿に蛮はまた鼻血を吹きそうになりました。すっぽんぽんでタレで前を隠している姿…普通はありません。 「俺は美堂蛮。…礼なんかいらねーぜ。あ、そうだ。」 ぽん、と蛮は手を打ちました。 「ここはサンタクロースの世界だ。色々な世界のクリスマスの日が毎日のようにあるから、俺はちょっと裏家業で奪還屋やってんけどな。」 「サンタクロースのせかい…?だっかんや?」 「たまーに子供の夢に忍び込んで変な注文するバカがいんだよ。だから子供の夢を奪還するのが俺ら奪還屋の仕事だ。」 「へぇ、面白そう…でも…村…」 突然消えたタレ銀に続いて銀次も消えて、村はきっと大騒ぎでしょう。銀次はタレ銀には言いませんでしたが、村の近くにはバケモノが棲んでいて、銀次は雷帝になって、いつも村を守っていたのです。ですが、タレ銀が消えて、銀次は心配で心配で、いつもよりたくさん怪我をしてしまったほどでした。 「村へ帰りてぇなら送る。…でも。」 蛮は真剣な眼差しで言いました。 「サンタクロースも奪還も、外の世界は楽しいぜ?楽になれや。」 ぽてん、とタレ銀が落ちます。銀次は立ち上がってました。 「いいの…?」 「いいんだよ…。」 ぎゅっと抱きしめました。ちょうど冷え切ってた体が蛮の体温で暖かくなります。ああ、ヒトの体ってあったかいなぁ。と銀次はその時初めて思いました。…と。 「へっきしっ」 忘れてました。寒かったのです。そりゃあバスタブに腰掛けシャワー浴びている時に雷帝から呼び出されて瞬間移動したのですから。 「寒いのか?」 にゅるん。 蛮の尻にケダモノの尻尾が姿を現しました。 「う…うん。」 あぶない!赤ずきんちゃん状態! 「暖めてやるよ…」 「え…あ…」 そのままお姫様だっこして、ベッドへ落とす…とした時。 蛮のケダモノシッポはちょっとだけ姿を消しました。 「くかー…ぎーじ…くかー」 いつの間にか、ベッドの真ん中でタレ銀が寝てました。それはもう、幸せそうな顔で。 「タレ、ありがとう。」 銀次がそっとほっぺたをつつきます。 「うきゅう…ぎーじ。」 その言葉に初めて銀次は気づきます。 「うそ…俺の名前呼んでる…」 びっくりした顔で、思わず蛮の顔を見ました。 「ああ、こっち来てから、ずっとお前の名前を呼んでたぜ?」 「お前が会わせてくれたんだね。ありがとう、タレ。」 「本当に幸せの使者だったんだな…。タレというのは。」 銀次はむっちりむちむちしたほっぺに、ちゅっとキスをします。と、蛮はゆっくりタレ銀を横にどけ、銀次をベッドの上におろしました。そして、同じようにちゅっとキスしました…唇に。 「え…?」 「俺に任せていりゃあいい。…俺はサンタクロースだぜ?」 ツケで無理矢理だったけど。という言葉は飲み込みます。波児の顔はしばらく神に見えそうです。ツケは払わないけど。 「う…うん。」 その言葉に不安ながらも、銀次はうなずきました。 かーかーと寝ているタレ銀の隣で、二人は何かを埋めあうように一つになりました。 「今日の場所は?」 赤と白の格好。サンタクロース。 「ちょっと面倒くせぇ所だな。」 同じく赤と白の格好。サンタクロース。 「きゅー、ぎーじ、ばーちゃ。」 ビチビチと手足を動かしているのは…HONKY TONKの女の子、夏実自信の作のタレ銀専用のサンタクロース姿。 奪還屋だって、とりあえずサンタの格好をしないといけないのがこの世界の決まりです。 「うん。分かってるよ。タレ。」 「行くぞ!銀次!」 「うん!蛮ちゃん!」 二人と一匹は「てんとう虫」に乗ります。 シャンシャンシャン… 特別仕様のそり、「てんとう虫」は、あっという間に消えていてきました。 もしかしたら、12月24日。あなたの街にもウニ頭で帽子がかぶれないサンタクロースと、金髪の方向音痴のサンタクロースと「ぎーじ、ばーちゃ」とビチビチしているシアワセをつれてくるサンタクロースが行くかもしれません。そうしたら…そうですね、マルボロと食べ物と酒を贈り物にするといいかもしれません。ただし飲酒運転は禁止ですから、缶よりも瓶のほうが良いかもしれませんね。 ちょっと大人で不思議なサンタクロースのお話でした。 ちなみに、銀次を追って、どうゆう訳だかその村から糸を使う人とか動物を自在に操る人とかやってくるのはその数ヶ月後…。 |
みき様のHPに当時かざってあったイラストがものっそ可愛くて、思わず書いてしまいました。
…読み返すに、凄い話だ……。