タ ン ポ ポ



 無限城を出て、美堂蛮と知り合って、色々あって、GetBackersを継いでから、半年が過ぎた。仕事はほぼないので車の生活にも慣れてきた。
 そして、銀次は、初めて無限城以外の地面をゆっくりと見られる時間を得ることができた。
「ねーねー、蛮ちゃん、あれなに?」
 公園を歩いている時、ふわふわの綿毛を指差して問うた。蛮はそれこそ驚いた顔をして銀次を見つめる。
「て、テメー、タンポポも知らねーのか?」
「え?あれ、タンポポなの?」
「タンポポは咲き終わるとあーなって、種を風に運んでもらうんだよ。」
 ふーん。とそれに近づいて、しゃがみ込む。風が吹いて、白いそれが飛んでゆく。
「なに、雷帝サマはタンポポも知らなかったんですか?」
 茶化すように蛮がしゃがみこんでいる銀次を見て…言葉を失う。

 ぽろぽろとあふれ出てきているのは…涙。

「おい、お前…………」
「……はじめて……みた。」

 しゃくりあげながら、じっと白いタンポポを見つめている銀次。

「ほれ、泣くな。目が溶けるぞ。」
 どうしていいのか分からなくなり、とりあえず立たせようとした蛮の耳に、小さな声で「ごめんなさい。」という言葉が入ってきた。聞かなかったふりをして、銀次を立たすと「波児のところに行って、確認しに行こうぜ。」と少し明るめに言った。
「……うん。」
 波児や夏実に聞かせることもないと思い、蛮はまだぐずっている銀次にたず ねる。
「タンポポ…綿毛だけでなんでテメーは泣けるんだ?」
 しばらく躊躇った後、銀次は一言「ここって平和なんだなって思ったから。」と答えた。
「は?」
「ロウアータウンではね。」

 遠くを見ながら、いや、過去を見ながら銀次はとつとつと話す。

 殆ど毎日、死人が出たんだよ。
 埋める場所もなくなるくらい。だから死んだ人は焼いた頭蓋骨だけもとのままで、あとは俺がプラズマ放電で、灰にして、まとめて埋めたんだよ。
 俺がVOLTSを作る前は火とかないから…焼いて、それを砕いて…。
 でね、ボヒョー…って言うの?あれはそこらに落ちてたコンクリートの破片で、そして花を一輪、供えるのが何となく決まっていたしきたりだったんだ。
 だから、子供たちは花で遊ぶことは禁じられてた。花は死んだ人のためのも のだったから。
 でもね。足りなくなっちゃうんだ。人が死ぬのが多すぎて。
 子供も大人も、それこそカヅッちゃんも士度も、みんなして探したよ。
 だから、タンポポの花は知っていても、タンポポの花が終わった後のことなんて、今まで知らなかったんだ。多分、今も知らない子供のほうが多いはずだよ。

「…だから、無限城から出てきた時、空と人がいる綺麗なビルと、普通に道端に咲いているタンポポに驚いたよ。蛮ちゃんが教えてくれるまで、あれがタンポポが咲いた後って知らなかったし…。」

 ありがとう。と目じりからまだ涙を残したまま、銀次が嬉しそうに言う。
「蛮ちゃんは、本当に色々教えてくれる。」
「ばーか。」
 首をぐいっと引き寄せ、デコピンをかます。
「ここは「あそこ」じゃない。これが普通なんだ。」
「うん。でも。」
 笑いながら銀次は言う。
「その「普通」を教えてくれるのは蛮ちゃんじゃない?」
 目が合う。澄み切った、琥珀色の瞳。
「そーだな。バカだから、テメーは。」
「バカバカ言わないでよー、蛮ちゃ…」
 反論する唇は、同じ唇で閉じられた。
「昼間から……。」
 唇が離れた後。
「…蛮ちゃんのバカ、エロ!キス魔!」
「そんな事言ってるお前がバカ、キス大好き魔。」
 その言葉にぼんっと顔が真っ赤になる銀次。
「ほれ、そのトマト顔、元に戻しておけ。あと少しでHONKY TONKだぞ。」
「無理だよぉ…。トマトって、赤くなったらそのまんまじゃない…。」
「お、良く知ってるな。ならも少し熟れさせてやろう。」

 ちゅっ

「蛮ちゃんのバカぁ!」
 完全に耳まで真っ赤になった銀次がくるりと踵を返すと一目散に走り出した。
「俺様に向かってバカとは何だ!バカとは!」
 銀次の走っていった方向へと、蛮も走り出す。
「バカって、バカって言った人のほうがバカなんだって〜。」
 あはははは、と笑いながら走る銀次。
「うっせぇ、真性バカ!」
 そう言っている蛮も笑い顔。

 二人の鬼ごっこは、それから小一時間経ったころ終わった。双方とも、息切れ全開だ。銀次がまだ笑いながらゴールとなった違う少し大きな公園の芝生にごろりとねっころがり、続いて蛮も座る。
「お、タンポポ。」
 胸ポケットからマールボロを取り出しながら、蛮は言う。ねっころがっている銀次は右、左と見て微笑む。
「こんなにいっぱいのタンポポ…はじめて…。」

 空は青くて、木々は緑で、タンポポがいっぱい咲いていて。

「すごい幸せ…。」
 
 この言葉を教えてくれた蛮ちゃんも近くにいて。
「ホントーに幸せ!」
 にこっと笑った。

 うっせぇ。このバカ。
 タバコを吸いながら、ころころ転がっている銀次を見ながら蛮は思う。
 青い空見て感動したり。
 タンポポなんてそこら辺に咲いているのを見て感動したり。
 本当にバカヤローだよ、テメェは。

 マルボロ独特のまろやかできつい味を楽しみながら蛮は、だから言ってやる 。
「タンポポよりも強くて可愛いよ。てめぇの笑顔は。」

 その後の銀次の反応は………

                                  END

@電撃を放った
A抱きついた
B「てへv」と照れた

 私的には@希望(笑)。
 モトネタは「レピッシュ」の「パヤパヤ」に入っているタンポポ(Toys U)より。
 もっと暗くしても良かったけど、「ちゅー」入れたらうすら可愛い仕上がりになった。
 …謎だ。