天子峰の教育結果



「本当だー。」
 テレビで海を見た銀次の最初に発した言葉はそれだった。
「何がですか?」
 一緒にテレビを見ながら夏実が尋ねる。
「本当に風呂より大きいんだ。海って。

え゛?

 隣に座っていた蛮はおろか、波児もレナもその言葉に絶句する。
「あの…銀次さん?」
「ん、なに?夏実ちゃん。」
 すごーいすごーい、と目をキラキラさせている銀次に恐る恐る問いかける。
「なんで海は風呂より大きいんですか?」
「え?歌があるでしょー?」


無い。


「おい、ちょっとその歌歌ってみろや。」
 波児が銀次を促す。
「うん。いいよ。」

 すぅっと息を吸って、歌いだす。



 うーみーはーふろよーりーおおきいぃなー


「ちょっと待て、銀次。」
 手を突き出し、波児は思わず止めた。
「え?」
「その歌、誰が教えてくれた?」
「え?天子峰さんv」


 天子峰〜


 子供に変な教育するなとかぶつぶつ言おうとしたが、銀次の言葉はまだまだ続く。

「海ってさー、波がちゃっぷちゃっぷなんでしょ?」
 うん。と全員が頷く。
「で、ヤクザの若い衆が浮いているんでしょ?」

 全員、気合を入れて首を横に振った。

「…それも天子峰が教えたのか?」
「うん♪」
 歌う〜と言って、銀次が歌いだした。曲は「カモメの水兵さん」だ。

 やーくーざーの若い衆
 へーまーやーった若い衆
 赤いシャツ 青い顔 白い骨
 なーみにチャップチャップ浮かんでる♪


「すごいよねー。白い骨になっても青い顔して浮いてられるんでしょ?ヤクザの若い衆。」

 だまされてる!育ての親にだまされてる!

「おい銀次。」
 ややあって、蛮が口を開いた。
「なに?蛮ちゃんv」
 振り向いた時、蛮の顔が憔悴してたのは気のせい?
「テメーの育ての親が教えたことを言う前に、俺に確認とれ。」
「え?なんで?」
「無限城のルールとこっちのルールが違うことは前に教えたよな?」
 うん。と頷く銀次に蛮はたたみかけるように言う。
「だから、てめぇの育ての親は無限城で知られていることをテメーに教えたんだ。だから、こっちのルールではない。」
「え?じゃあ、海ではヤクザの若い衆は白い骨になっても浮かばないの?」
「たまーにあるが、しょっちゅうは浮いてない。」

 否定はしないのか?

「へー、そうなんだ。一面にぷかぷか浮いていると思ってた…って、なんでみんなそんなに疲れた顔してるの?」
 銀次は周囲を見渡す。レナあたりはしゃがみこんで青い顔をしている。想像してしまったのだろう。
「蛮。」
 波児のその一言にため息ながら頷いた。
「銀次、明日にでも海につれてってやる。」
「ホント?」
 ひょん、と銀次の見えない耳があがる。
「おお。ちゃんとこっちのルールを覚えていけ。」
「うん!」
 わーいわーい、海〜♪と喜ぶ銀次。
「なぁ、波児。」
 その喜ぶ姿を横目に見ながら蛮が話しかける。
「…言うな。今度会ったら俺が殴っておく。」
「……分かった。」
 こいつの常識知らずの一端の理由が確定した今、蛮はそいつに情け容赦ない攻撃をしかけるつもりだ。
 ひらがなしか覚えさせないで…何が育ての親だ……こっちが苦労しているんだぞ。


 ああ、そんなこんなでも、とりあえずHONKY TONKの日常。



天子峰さん…育てた子供はこんなカワイイ子に育ってしまいました(笑)。
他のサイトさんではサワヤカに、そして美しく書かれている「海」ネタも、私にかかるとこうなってしまいます。…どうしてでしょう。